学習と教育

  初対面の人と会話をしているうちに互いの学歴について語り合うことになることがある.日本の人の場合,ふつうこう聞かれる.
 「どちらの大学に行かれたのですか?」
 一方外国人の場合は別の聞き方をされる事が多い.
 ”What did you study in College?”
 もうひとつ大きな違いが観察される.日本人同士の会話の場合,大学生活の話と言えば友人関係など遊興関係が中心である.勉強の話になることは少ないが,なるとすれば熱が入る.難解な話をする者ほど偉い.
 一方外国の人と大学の話をすると,互いの専門分野についてなるべく詳しく理解しようと努力が行われる.難しい話題をわかりやすく解説できる人が尊敬される.

 日本ではよく教育の問題が話題になる.その度に文部省の作った制度が批判させる.
 ここではっきり言っておきたい.学校に対して最も影響力のあるのはお役所ではない.地元経済である.
 東京と愛知とでは学校の様子が随分違うことが知られている.東京は企業や官庁の管理職の子弟が多く通う.だから受験戦争が熾烈になる.愛知の学校は工場労働者を育てる.ゆえに管理教育が徹底している.
 アメリカの中西部で私は小学校に通ったが,やはり地方の経済の特色が色濃く反映されていた.アメリカ中西部は製造業が盛んである.ピッツバーグは鉄のまち.デトロイトは車のまち.シンシナティは石鹸のまち.工場労働者を育てるため,規律にはうるさい.図書館の本を延滞したら一冊一日につき罰金一セントというのまであった.一方,次のエジソンやフォードを期待して創造性を育む.作文の時間は創作中心.神童が出現したら英才教育.ちなみにここでは教科書は学校の所有する公共物である.

 論語の有名な言葉に「民はこれを由らしむべし.知らしむべからず.」とある.
 知識を叩き込もうという教育は意味がない.テストの成績の悪い者を懲らしめる事によってこれを強行しようとすると,テストに出そうな事しか覚えない学生が増える.「出題者の意図をつかむように努力せよ.」と言って教師達がこういう姿勢を後押ししている.
 こういう学生は大人になってどうなるか.相手が必要なものでなく,相手が欲しがっているものを与えて機嫌を取る傾向が強くなる.ひいては,取り締まりの厳しい規則は守ってもそうでない事柄は擦り抜ける大人になってしまう.

 日本人は会議等の席次をやたら気にするが,電車の中で年寄りや妊婦に席を譲らない.
 日本の中高生が煙草を吸ったら厳罰に処せられる.しかし喫煙者のマナーは最悪である.
 日本の金融機関にとって網の目のような規制は巧みに利用して儲ける手段にすぎない.

 これは本人に一番問題がある.しかし,本人ばかりを責めていられない.何しろ人生の試練に真正面から対峙する姿勢を身につけるのに充てるべき貴重な時間を脅されて取り上げられてしまったのだから.
 論語の冒頭を思い出そう.孔子は何から語り始めているか.

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