生物の世界では強者のみが子孫を残すという掟がある.
動物の場合,複数の雄が一匹の雌を巡って競うことがある.その時,必ず種特有の決闘が行われ,勝った者が雌を獲得し,子孫を残す権利を得る.野牛や角鹿は角を突き合わせて押し合う.カンガルーは短い前足でボクシングをする.亀の中には相手をひっくり返した方が勝ちというのがいる.逆さにされた方は元に戻れなくなるから仰向けのまま身動き取れずに餓死を待つ.
人も動物だから女を巡って男どもが決闘を行う.方法は幾つかあるが,やはり原始的な取っ組み合いが一番好まれている.実は私も経験がある.冬の星空の下,凍った雪の上が闘いの場所だった.原因は一人の女が二人の男にチョコレートを贈った事にあった.
人の決闘の場合,他の動物には見られない不思議な光景を目にする.闘いに敗れた男を女が選ぶことがままある.
人類滅亡の予兆か?
人の場合,闘うまでもなく,強者と弱者の区別はたいがいついている.
弱者は必ず権威にすがる.
日本人が好む権威には東京大学,日本放送協会,読売巨人軍などが挙げられる.日本人は権威が好きだから数え挙げたらきりがない.日本で出世するには弱者であることが条件のようだ.
国際的に通用する権威と言えばノーベル賞,シャネル,赤十字などがある.
反権威と言う物もある.日本で言えばロック音楽や写真週刊誌,今では人気が衰えたがマルクス主義などが挙げられる.反権威の信奉者は強者だろうか?そうではない.何かにすがっているという点では権威の信奉者と何ら変わらない.その証拠に権威と反権威の間を人は臆面もなく行き来する.先の大戦中には日の丸共産主義と言う物まであった.
強者は非権威を愛する.昔から強者が友達にしてきたのは土管の犬儒だ.土管の犬儒を世界大王が訪ねた時の話は有名である.
「私は世界大王である.望む物はないか?何でも差し上げよう.」
「日陰なるからどいてくれないか.」
「私は世界大王でなければ土管の犬儒になりたい.」
土管の犬儒の哲学は素晴らしい.彼は「人の目標は良く生き幸せになること」だとはっきり言っている.
現代において人気があるのはやはり超人預言者である.彼の代表作を読んでいて気持ち良いのは固有名詞が全然出て来ない点である.しかし彼がいくら徹底したニヒリストであっても否定できなかった価値がある.力は言うまでもなくその一つだ.力に依存し過ぎている面が彼の弱さである.
超人預言者は根性があったから女性にもてていたはずである.
私は土管の犬儒と超人預言者のどちらも好きだがこよなく愛するのは唐の太上隠者という人である.彼の詠んだ詩を見てみよう.
寒尽不知年 | 山中無歴日 | 高枕石頭眠 | 偶來松樹下 | 答人 |